高齢者向け対話AIでケアマネジャー面談業務時間の7割削減に成功

〜ケアマネジャーの介護モニタリング業務負荷を軽減〜
2023年3月8日

KDDI株式会社
国立研究開発法人情報通信研究機構
NECソリューションイノベータ株式会社
株式会社日本総合研究所

KDDI株式会社 (本社:東京都千代田区、代表取締役社長:高橋 誠、以下 KDDI)、国立研究開発法人情報通信研究機構(本部:東京都小金井市、理事長:徳田 英幸、以下 NICT)、NECソリューションイノベータ株式会社(本社:東京都江東区、代表取締役 執行役員社長:石井 力、以下 NECソリューションイノベータ)は、株式会社日本総合研究所(本社:東京都品川区、代表取締役社長:谷崎 勝教、以下 日本総研)の協力を得て2022年6月28日から2023年1月28日まで、内閣府SIP第2期(注1) に採択され研究開発している高齢者向け対話AIシステムを活用した介護モニタリングの実証実験(以下 本実証)を実施しました。
介護モニタリング(注2)は、ケアマネジャーが高齢者の自宅等へ訪問し健康状態や生活状況の変化を確認する業務で、ケアマネジャー業務全体の4分の1を占めています(注3)。本実証では、マルチモーダル対話AIシステムを搭載したぬいぐるみ型の専用端末およびスマートフォンを活用することで、介護モニタリングにおいて高齢者の健康状態や生活状況の変化の情報を収集するための面談とその記録業務に要する時間を約7割(注4)削減することに成功しました。
本実証の面談1回からの抜粋動画はこちら(https://youtu.be/cuIHPYEqOKc?t=73)。

<実証実験の様子>
<本実証で使用した端末>

高齢者の社会からの孤立やコミュニケーションの不足による健康状態悪化のリスク(注5)が社会課題となっています。高齢者のケア・介護領域におけるきめ細やかな対応の需要が増加するなかで、ケアマネジャーの業務を効率化しつつ質を高める具体策が求められております。
このような状況の中、KDDI、NICT、NECソリューションイノベータは、高齢者の適切なケアマネジメントに関する研究を行ってきた日本総研の協力を得て、介護モニタリングの一部を代替するマルチモーダル音声対話システム(Multimodal Interactive Care SUpport System、以下 MICSUSミクサスを開発しました(注6)
MICSUSでは、介護の専門家の知見を対話AIシステムに取り込んでおり、対話を通じて高齢者の健康状態や生活状況の変化の情報収集を行います。また、Web情報やニュース記事を基にした雑談も可能です。

300万件の言語資源データから言語モデルを構築することで、ユーザー発話の意味解釈を高度化し、遠まわしな発話にも対応する高度な自然言語処理を実現しています。また、画像や音声など複数の情報(表情・音韻的特徴・うなずき)を総合的に考慮し、感情の表出が認められてから0.1秒以内にユーザーの感情を推定します。

実証結果について

  • 本実証では、サービス付き高齢者向け住宅などの施設や自宅で生活する高齢者179名が、MICSUSが組み込まれたぬいぐるみ型の専用端末やスマートフォンと計927回面談しました。ケアマネジャーがMICSUSを通じて取得した高齢者の情報を確認用のツールアプリから確認することで、面談一回当たりの面談と記録に要する業務時間を平均7.0分から2.2分へ約7割短縮することに成功しました。ケアマネジャーの作業負荷を軽減できるほか、実証実験に参加したケアマネジャーからは「高齢者にも無理なく使っていただける」というコメントをいただきました。
  • MICSUSからの雑談の半数以上に笑顔や積極的な興味を示すなど、高齢者のコミュニケーション不足解消へ寄与することを示唆する結果も得られました。
  • MICSUSが高齢者へ質問し、高齢者が回答するという対話を通じて、高齢者の健康状態や生活習慣を適切(約93%の精度)に収集し、高齢者の発話に対して適切(約93%の精度)に応答可能なことを確認しました。

今後について

  • 研究代表であるKDDIは、NICT、NECソリューションイノベータ、日本総研と協力して、本技術の社会実装に向け、さまざまなパートナーとの共同実証を実施していきます。AIテクノロジーを活用したコミュニケーション手法による新しいデジタル体験を提案し、一人ひとりに最適なサービスの提供やデジタルデバイド解消など、社会に貢献する事業の創造に取り組み、対話AIプラットフォームの事業化を目指します。
  • 研究分担者であるNICTは、さまざまな社会課題の解決、回避に向け、言語、音声の高度かつ高精度な意味的処理の実現を目指して研究開発を行い、KDDIをはじめとするさまざまな企業、組織に技術を提供していきます。

別紙

MICSUSについて

  • 高齢者の健康状態や生活状況の変化に関して、ケアマネジャーに代わってMICSUSが聞き取ります。聞き取る内容は、厚生労働省の補助事業の一環で日本総研が調査研究事業を実施している「適切なケアマネジメント手法(注7)」に準拠しています。
  • 大量のWeb文書(350GB)と本プロジェクトで構築した300万件の高品質な言語資源データで大規模言語モデルを学習させ、ユーザー発話の意味解釈を高度化し、遠まわしなユーザー発話にも対応可能な自然言語処理を実現しています。また、自然言語処理の軽量化にも成功し、深層学習用プロセッサ(GPU)1枚(注8)で5,000名のユーザーとの同時対話に対応可能です。画像や音声のマルチモーダルなセンシング情報(表情・音韻的特徴・うなずき)を総合的に考慮し、感情の表出が認められてから0.1秒以内にユーザーの感情を推定します。
  • MICSUSが聞き取った内容は、ツールを用いて時間場所を問わず簡易に確認・修正可能なうえ、ケアマネジャーが把握したい情報が盛り込まれており、モニタリング業務の作業効率向上が見込めます。
  • モニタリングのための質問とWeb情報やニュース記事を基にした雑談とをシームレスに切り替えます。雑談では、高齢者の応答内容に関して新規情報を含んだ応答を返すことで高齢者の関心を引きつけ、飽きずに継続利用いただくことでコミュニケーション不足の解消に寄与することが期待できます。
  • 基本ケア(疾患や状態によらず、共通して重視すべき事項)に基づいた対話が可能なため、ケアマネジャーのモニタリング用途だけでなく、高齢者の見守りなど広い用途にも応用可能です。
  • MICSUSにより、ひっ迫するケアマネジャーの業務負荷軽減、健康状態悪化のリスクのあるコミュニケーション不足の解消の一助となる事で、将来の介護需要の増加を抑制することを目指します。
<確認・修正ツール>
(注1) 内閣府総合科学技術・イノベーション会議の「SIP第2期/ビッグデータ・AI を活用したサイバー空間基盤技術」(管理法人:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構) https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP2_100126.html
(注2) ケアマネジャーが高齢者に直接会って、健康状態・生活習慣<>の変化を把握し、現在のケアプランが適切かどうか見直し、改善を行っていく業務です。在宅の要介護高齢者に対する原則月1回以上の介護モニタリングが義務付けされています。なお、ケアマネジャー1人あたり約33名の高齢者を担当しています。 出典:居宅介護支援及び介護予防支援における令和3年度介護報酬改定の影響に関する調査研究事業 https://pubpjt.mri.co.jp/pjt_related/roujinhoken/jql43u0000001228-att/R3_017_2_report.pdf
(注3) 平成27年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(平成27年度調査)(5)居宅介護支援事業所および介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000125486.pdf
(注4) 同じ質問量での比較となるよう調整したうえで、質問10問(面談約一回分の質問量)に要する業務時間として、①人間が対面で聞き取る場合の所要時間およびその記録時間、②MICSUSを活用し、ケアマネジャーはその対話履歴の確認や修正Webアプリでの確認に要した時間を比較しました。
(注5) 斎藤雅茂、近藤克則、尾島俊之、平井寛、” 健康指標との関連からみた高齢者の社会的孤立基準の検討? 10年間のAGESコホートより”, 日本公衆衛生雑誌2015; 62(3): 95-105, doi:10.11236/jph.62.3_95( 表3より一部抜粋)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/62/3/62_14-071/_article/-char/ja/
(注6) 2018年12月10日ニュースリリース 戦略的イノベーション創造プログラムの研究開発課題を受託〜AIとの協働による、より良い高齢者介護を目指して〜 https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2018/12/10/3515.html
(注7) 「適切なケアマネジメント手法」は、要介護高齢者本人と家族の生活の継続を支えるための多職種連携をより円滑に進められるようにするため、各職域で培われた知見に基づいて想定される支援を体系化し、その必要性や具体的な支援内容を検討するためのアセスメント/モニタリングの項目等を整理したものです。 出典:厚生労働省ホームページ 適切なケアマネジメント手法の策定、普及推進 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/hoken/jissi_00006.html
(注8) NVIDIA V100

問合せ先

ユニバーサルコミュニケーション研究所 データ駆動知能システム研究センター

大竹 清敬