「テラヘルツ波による超大容量無線LAN」の実現に必要な要素技術・統合技術を開発

~Beyond5G時代の新たな無線システムの構築~
2025年11月21日

株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
学校法人千葉工業大学
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
ザインエレクトロニクス株式会社
国立大学法人広島大学
国立大学法人名古屋工業大学
学校法人東京理科大学
独立行政法人国立高等専門学校機構徳山工業高等専門学校
国立大学法人東北大学
シャープ株式会社

株式会社国際電気通信基礎技術研究所(以下「ATR」)、国立大学法人東京科学大学、学校法人千葉工業大学、国立研究開発法人情報通信研究機構(以下「NICT」)、ザインエレクトロニクス株式会社、国立大学法人広島大学、国立大学法人名古屋工業大学、学校法人東京理科大学、独立行政法人国立高等専門学校機構徳山工業高等専門学校、国立大学法人東北大学シャープ株式会社の11者は、150 GHz帯、および300 GHz帯を用いた超大容量無線LANの研究開発を共同で行い、「端末搭載可能な超小型多素子アンテナモジュール化技術(RF-IC、アンテナ・伝搬解析等)の確立」「300 GHz帯で2次元フェーズドアレーにより30度のビーム制御が可能なトランシーバの実現」「150 GHz帯双方向通信システム、伝搬路制御技術、および無線リソース制御技術、ならびに複数周波数帯を活用した接続先アクセスポイント検出技術の確立」などの成果を得ることができました。本研究成果は本年11月26~28日にパシフィコ横浜で開催されるMWE2025で展示されるとともに、11月27日のワークショップ「テラヘルツ波による超大容量無線LANの実現に向けた最新技術動向」でも説明されます。

背景

5Gの普及や、AIや映像技術の進歩に伴い、通信回線のトラヒック量は劇的に増加しています。さらにAR・VR などのコミュニケーションツールやモビリティの高度化に向けて、大容量かつ同時多接続伝送技術が求められています。また、大量のデータを扱うデータセンター内も大量の配線があり、サーバーの移設などには困難が伴います。そのような利用シーンで超大容量の無線LANを使うことができれば、配線による束縛が解消され、レイアウトの自由度が大きく改善します。
データセンター写真
データセンターへの導入のイメージ

研究概要

テーマ テラヘルツ波による超大容量無線LAN伝送技術の研究開発
実施時期 令和4年9月から令和8年3月まで
課題ア:MIMO対応多素子アンテナモジュールの研究開発
テラヘルツ無線LAN電波伝搬特性の把握:300 GHz帯/150 GHz帯におけるMIMOパス環境特性の明確化、アンテナの指向性および反射板の形状や配置への指針を策定しました。

AiP(Antenna-in-Package)モジュール技術の確立:高密度AiP設計および実装による体積1 cm3以下で偏波MIMO対応の16素子フェーズドアレーモジュールを開発、150 GHz帯において通信距離3 m、伝送速度100 Gbpsを達成しました。

課題アのイメージ
150GHz帯AiPモジュールの外観
課題イ:トランシーバ技術の研究開発
300 GHz帯を用いて、ビーム方向を制御できる高利得アンテナと、それに対応したシリコンCMOS集積回路を用いたトランシーバを開発しました。2次元フェーズドアレー構造を用い、平面で小型のモジュールとしているのが特徴。空間内の複数の端末間で同時に無線伝送を行うことができる複数ストリーム通信に対応可能とし、1ストリームあたり40 Gbps以上の伝送速度、±30 度以上の2次元ビーム制御の実現を目指しています。

課題イのイメージ
課題ウ:マルチ周波数協調動作技術の研究開発
サブテラヘルツ帯を活用する無線LANの実現に向けて、低オーバヘッドで接続可能なアクセスポイントを探索する技術、サブテラヘルツ帯を対象にした無線リソースの割り当て技術およびIntelligent Reconfigurable Surface(IRS)を用いた伝搬路制御技術、ならびに複数のサブテラヘルツ帯アクセスポイントが連携して超高速伝送を行う(Joint Transmission)ために必要となるアクセスプロトコルとバックホール通信システムを対象とした研究開発を行っています。

開発装置の例

150 GHz帯において、4 Gbpsでエラーフリーの双方向通信ができることを確認しました。
動作検証の画像
150GHz帯での動作検証

国際標準化活動について

本研究開発による成果の社会実装に向けて、IEEE 802.11 Working Groupをはじめとした各種標準化委員会における標準化活動を進めています。また、将来的な275 GHz以上の周波数の通信業務利用に向けて、国際電気通信連合(ITU)の関連部会における各種活動を実施しています。

各組織の役割・成果・所在地・代表

ATR:全体とりまとめ・課題ウ
本研究開発プロジェクトのとりまとめを行っています。また、低オーバヘッドで接続可能なアクセスポイントを探索する技術、複数アクセスポイント連携技術・プロトコルを確立し、サブテラヘルツ帯双方向無線通信システムならびにアクセスポイント連携のための超高速バックホール通信システムを開発しました。
本社:京都府相楽郡精華町、代表取締役社長:浅見 徹
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東京科学大学:課題ア 高密度RFフロントエンド設計技術を担当し、4x3 mmのCMOSチップに4素子の150 GHz帯送受信回路を低消費電力で集積することに成功しました。これにより、伝送速度100 Gbpsの高性能モジュールの実証に貢献しました。また、課題ウとの連携により、150 GHz帯 双方向通信の実証にも寄与しました。さらに、小型アンテナインパッケージ設計を担当し、広角ビーム走査可能な16素子・8素子アンテナを設計しました。
本部:東京都目黒区大岡山、理事長: 大竹 尚登
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千葉工業大学:課題ア Sub-THz帯における電波伝搬特性評価・アクセスポイント・端末に求められる指向性や配置の指針の明確化、反射板による伝搬環境変化技術を担当し、屋内環境における反射特性および到来パス特性の実測評価、アクセスポイントの配置に対する端末に求められる指向性の明確化、平板を結合した凸型反射板を提案し具体的構成を示しました。
本部:千葉県習志野市津田沼、学長:伊藤 穰一
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NICT:課題イ 課題イのとりまとめを担当しています。アンテナ設計や集積回路チップを集約してプリント基板と無線モジュールの設計をおこない、無線システム全体を構築して無線伝送実験を実施しています。無線モジュールへの電源供給回路の設計と、無線システムシミュレーションも担当しています。
本部:東京都小金井市貫井北町、理事長:徳田 英幸
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ザインエレクトロニクス:課題イ ベースバンド集積回路の設計を担当しています。セミアナログ方式を用いて送受信部に必要なキャリア/クロック・データリカバリ、イコライズ、フェーズドアレーによるビーム制御に対応したRFフロントエンド制御の実現を目指しています。アナログ回路とデジタル回路の配分を最適化し協調設計することで高ビットのアナログ・デジタル変換回路(ADC)や大規模なデジタル演算(DSP)を不要とし、コスト、消費電力を抑えることを狙っています。
本社:東京都千代田区神田美土代町、代表取締役社長:南 洋一郎
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広島大学:課題イ RFフロントエンド集積回路の設計と、全体システムアーキテクチャ設計を担当しています。フェーズドアレーの要素ブロックに信号を分配・統合するためのHツリーブロックを主に担当しています。半波長ピッチのフェーズドアレーを実現するために回路と伝送線路の小面積化を狙っています。
本部:広島県東広島市鏡山、学長:越智 光夫
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名古屋工業大学:課題イ アレー状に配置されたRF回路と一体化したフェーズドアレーアンテナを開発しています。RF回路の実装に用いる多層基板内に構成可能な電磁結合開口型アンテナにより、広帯域・低損失を目指しています。回路一体型アンテナの放射特性測定技術も開発しています。
本部:愛知県名古屋市昭和区御器所町、学長:小畑 誠
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東京理科大学:課題イ RFフロントエンド集積回路設計を分担しています。フェーズドアレーアンテナに接続される要素ブロックの回路を主に担当しています。半波長ピッチのフェーズドアレーを実現するために回路の小面積化を狙っています。
本部:東京都新宿区神楽坂、学長:石川 正俊
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徳山工業高等専門学校:課題イ RFフロントエンド集積回路設計を分担しています。移相回路設計の基礎検討を担当しています。
本部:山口県周南市学園台、校長:阿部 恵


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東北大学:課題ウ 複数のアクセスポイントやIntelligent Reflecting Surface(IRS)を連携させ、単一あるいは複数の端末に対する効率的なマルチストリーム伝送を実現するためのIRS制御および割当技術を確立しました。
本部:仙台市青葉区片平、総長:冨永 悌二
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シャープ:課題ウ 複数アクセスポイントと複数端末から構成されるシステムにおいて、連携アクセスポイント選定アルゴリズムおよび無線リソース割り当てアルゴリズムを担当しました。教師ラベルが不要な機械学習である自己教師あり学習による、各端末のトラヒック量を考慮した連携アクセスポイント選定および無線リソース割り当て技術を開発しました。
本社:大阪府堺市堺区匠町、代表取締役 社長執行役員 CEO:沖津 雅浩
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本研究開発は、総務省の「電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)」により実施したものです。

NICTの問い合わせ先

未来ICT研究所 小金井フロンティア研究センター

笠松 章史