電磁環境に関する国際規格への貢献

-普及が進む省エネ家電等から発生する30MHz以下の周波数帯における電磁雑音測定法の策定に貢献-
2023年7月18日

国立研究開発法人情報通信研究機構

NICTエヌアイシーティー電磁波研究所電磁波標準研究センター電磁環境研究室は、長年にわたり、電磁雑音の測定に関する分野の研究開発に取り組み、国際無線障害特別委員会(CISPR)[1] による国際規格の策定に積極的な貢献を行っています。
CISPRでは、2012年から、30 MHz以下の周波数帯において空間に放射される電磁妨害波の測定法に関する一般的要件を定めた国際規格の策定に向けた活動を開始しました。NICTは、国際規格の策定に向けて測定方法や校正方法を提案するなど、主導的立場で積極的に貢献しており、この度、CISPRから測定用アンテナ、測定サイト、電磁雑音の評価方法を定めた3編の基本規格が発行されました。NICTにおける研究成果が大きく反映された国際規格は、今後、電気自動車や自動搬送措置への無線給電システム、電化製品、パソコンなどの情報通信端末等、製品ごとに策定される国際規格に測定法として規定されます。

30 MHz以下(9 kHz~30 MHz)の周波数帯は、従来、長波・中波・短波と呼ばれ、電波が使われ始めた当時から放送・通信に利用されてきました。また、電波時計の基準となる標準電波(40 kHz/60 kHz)、AMラジオ放送や遠洋の船舶通信、国際線航空機用の通信、国際放送及びアマチュア無線に加え、キャッシュレス時代に必須の非接触ICカード(13.56 MHz)などに利用されています。さらに、近年、放送・通信に限らず、IH調理器や無線充電システムといったエネルギー伝送という新しい電波利用が普及してきました。一方、LED電球やエアコンの室外機、ノートパソコンの充電器といった省エネ家電の普及により、これらに内蔵されたインバータ回路が発生源となって空間に放射される電磁妨害波、特に30 MHz以下の周波数帯に生じる電磁妨害波が問題となってきており、国際的に電磁妨害波に規制を設ける必要性が高まってきました。
電磁妨害波の測定には、電磁妨害波を測定する方法だけではなく、測定サイト(電波暗室)を評価する方法、測定に使用するアンテナの較正方法に関する規格の策定が含まれます。NICTではこれらの規格化を主導し、標準ループアンテナの開発[2](図1)、アンテナ較正法の研究開発[3](図2)、測定サイト評価法の研究開発(図3)、電磁雑音測定法の研究開発(図4)を行い、3編の基本規格(CISPR16シリーズ)の策定に貢献しました。
今後、30 MHz以下の電磁雑音を発生させる省エネ家電や無線充電システムはますます普及すると思われます。NICTでは、今後も、電波を安心・安全に使うことができる電磁環境を維持するための研究開発を続けて参ります。

図1 標準ループアンテナ
図1 標準ループアンテナ
図2 ループアンテナ較正法
図2 ループアンテナ較正法
図3 電磁妨害波測定サイト評価法
図3 電磁妨害波測定サイト評価法
図4 電磁妨害波測定
図4 電磁妨害波測定

NICTの成果が採用されたCISPR規格

  • CISPR 16-1-6 Edition 1.2
    無線妨害及びイミュニティ測定装置並びに測定方法の仕様書-第1-6部:無線妨害及びイミュニティ測定装置-EMCアンテナの校正
    (2022年3月3日発行)
    NICT及び国立研究開発法人産業技術総合研究所において開発したアンテナ較正法が、新たに採用されました。
  • CISPR 16-1-4 Edition 4.2
    無線妨害及びイミュニティ測定装置並びに測定方法の仕様書-第1-4部:無線妨害及びイミュニティ測定装置-放射妨害の測定用アンテナ及び試験サイト
    (2023年4月13日発行)
    NICTが開発した測定サイト評価方法が、新たに採用されました。
  • CISPR 16-2-3 Edition 4.2
    無線妨害及びイミュニティ測定装置並びに測定方法の仕様書-第2-3部:妨害及びイミュニティの測定方法-放射妨害の測定
    (2023年6月13日発行)
    NICTによる研究成果が、測定誤差を低減する方法として採用されました。

参考文献

[1] 総務省 電波利用ホームページ CISPR
https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/inter/cispr/
[2] NICT電磁環境研究室Webページ, “ループアンテナの較正”
https://emc.nict.go.jp/meas/meas_loop_cal.html
[3] 藤井, 酒井, 杉山, 瀬端, 西山, “30MHz以下におけるEMI測定用ループアンテナの校正,” 情報通信研究機構研究報告, Vol.62, No.1, 2-5-1, pp.63-72, Dec. 2016.
https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/kihou-journal/houkoku62-1.html

NICTの問い合わせ先

電磁波研究所
電磁波標準研究センター 電磁環境研究室

藤井 勝巳