巨大磁気嵐がもたらす宇宙空間の変動観測に成功

~宇宙空間に電離大気の供給が抑制されていたことを発見~
2025年11月21日

国立研究開発法人情報通信研究機構

名古屋大学宇宙地球環境研究所および情報通信研究機構などからなる研究グループは、全球測位衛星システム(GNSS)とジオスペース探査衛星「あらせ」などの観測データを解析し、2024年5月10日に発生した巨大磁気嵐時のプラズマ圏と電離圏の電子密度の時間変化と空間構造の観測に成功しました。

背景

地球周辺の宇宙空間には、太陽活動の影響を受けて形成される電離圏(※1)やプラズマ圏(※2)が存在し、これらは全球測位衛星システム(GNSS、※3)衛星測位や衛星通信に影響を及ぼします。磁気嵐(※4)の際には電離圏の電子密度が増減する電離圏嵐(※5)が発生し、通信障害や測位誤差の原因となります。プラズマ圏も磁気嵐で縮小し、回復には電離圏の状態が関係すると考えられていますが、その詳細な関係性は十分に解明されていません。

内容

2024年5月10日に発生した約21年ぶりの巨大磁気嵐(※6)により、世界各地で低緯度オーロラが観測され、プラズマ圏の急激な構造変化や全球的な電離圏嵐がGNSS受信機網などで捉えられました。本研究では、JAXAの探査衛星「あらせ」と地上GNSS受信機網で観測された電離圏全電子数(TEC)観測(※7)を組み合わせ、電離圏嵐がプラズマ圏の回復に与える影響を解析しました。あらせ衛星の電子密度データを用いて、磁気嵐後のプラズマ圏の回復過程を詳細に追跡した結果、プラズマ圏の回復に4日以上を要していたことがわかりました。過去77例の磁気嵐におけるプラズマ圏の回復時間を調べたところ、今回の事例では、プラズマ圏の回復時間が極端に長いことが判明しました。GNSS受信機観測網によるTEC解析では、北半球全域で電離圏電子密度が50~90%減少していました。今回の観測でプラズマ圏の回復に時間がかかった原因は、電離圏からプラズマ圏へのプラズマ供給が抑制されたことによるものと、結論づけられました。

2017年3月から2024年12月までに発生した77例の磁気嵐に対するプラズマ圏の回復時間の統計解析結果。横軸はプラズマ圏の回復時間[日]、縦軸は磁気嵐の規模[nT]で表す。

成果の意義

本研究は、2024年5月の巨大磁気嵐に伴う電離圏擾乱が、プラズマ圏の回復を著しく遅延させたことを世界で初めて明らかにしました。電離圏の電子密度低下がプラズマ供給を抑制し、プラズマ圏の構造変化と回復過程に大きく影響することを示した本成果は、宇宙天気予報モデルの高度化に貢献するものであり、将来的な衛星通信障害の予測精度向上にもつながる重要な知見です。


※1:電離圏
地球を取り巻く超高層大気中の分子や原子が、紫外線やエックス線などにより電離した、高度約60~1,000 kmの領域。この領域は電波を吸収、屈折、反射する性質を持ち、これによって短波帯などの電波伝搬に影響を及ぼす。
※2:プラズマ圏
電離圏起源の低エネルギー(低温)の荷電粒子群(プラズマ)から構成され、比較的高密度のプラズマが存在する領域。この領域は、電離圏の外側から地球磁気圏の内側に存在し、その外側境界でプラズマ密度が1桁程度、急激に減少する。
※3:GNSS衛星
アメリカのGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、ロシアのGLONASS、欧州連合のGalileo等の衛星から発せられる信号を用いた位置測定・航法・時刻配信を行う衛星測位システムの総称、全球測位衛星システム。
※6:2024年5月10日に発生した巨大磁気嵐
https://swc.nict.go.jp/knowledge/ionosphere.html#ionospheric_storm
※7:電離圏全電子数
電離圏を通過する電波は、伝播経路上の電子の総数と電波の周波数に依存して、速度に違いが生じる。この性質を利用してGNSS衛星から送信された周波数の異なる2つの信号から算出された、受信機と衛星を結ぶ経路に沿って積分した単位面積当たりの柱状数密度。

論文情報

雑誌名:
Earth, Planet and Space
論文タイトル:
Characteristics of temporal and spatial variation of the electron density in the plasmasphere and ionosphere during the May 2024 super geomagnetic storm
著者(所属):
新堀 淳樹(1)、北村 成寿(1)、山本 和弘(1)、熊本 篤志(2)、土屋 史紀(2)、松田 昇也(3)、笠原 禎也(3)、寺本 万里子(4)、松岡 彩子(5)、惣宇利 卓弥(6)、大塚 雄一(1)、西岡 未知(7)、ペルウィタサリ セプティ(7)、三好 由純(1)、篠原 育(8)
DOI:
https://doi.org/10.1186/s40623-025-02317-3

(1)名古屋大学宇宙地球環境研究所、(2)東北大学大学院理学研究科、(3)金沢大学理工研究域電子情報通信学系先端宇宙理工学研究センター、(4)九州工業大学大学院宇宙システム工学研究系、(5)京都大学大学院理学研究科、(6)京都大学生存圏研究所、(7)情報通信研究機構電磁波研究所、(8)宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所

関連発表

• 名古屋大学 研究成果発表サイト

問い合わせ先

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電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター
宇宙環境研究室

西岡未知
Septi Perwitasari