世界初、ワット級高出力動作の深紫外LED小型ハンディ照射機の開発に成功

~ワット級深紫外LEDハンディ機によって広範囲のウイルスを迅速に不活性化~
2022年10月27日

国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

  • 世界初、光出力8 Wワットを超えるワット級の波長265 nm帯高出力深紫外LEDハンディ照射機を実証
  • 高強度深紫外LEDをマルチチップ実装することで、どこにでも持ち運べる小型ハンディ機を実現
  • 広範囲のウイルスを30秒以下で99.99 %以上不活性化でき、感染拡大防止や公衆衛生の向上に貢献
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICTエヌアイシーティー、理事長: 徳田 英幸)未来ICT研究所の井上 振一郎室長らの研究グループは、8 Wワット を超えるワット級の深紫外LEDハンディ照射機の開発に世界で初めて成功しました。発光波長265 nm帯の高強度深紫外LEDをマルチチップ実装しバッテリーで駆動させることで、どこにでも持ち運べる小型ハンディ機を実現しました。
今回開発した深紫外LEDハンディ照射機を用いて、豚コロナウイルス(PEDV)に対する定量的な照射効果を評価した結果、広範囲(直径100 cm内)のウイルスを極めて短い照射時間(30秒以下)で99.99 %以上不活性化できることを明らかにしました。
本成果は、ワット級高出力動作の深紫外LEDハンディ照射機により、広範囲のウイルスに対し、短時間の照射で極めて高いウイルス不活性化率を達成した世界初の実証例となります。病院や公共・商業施設、交通機関など幅広い場面での実用性・汎用性の高い殺菌応用が期待されるほか、これまで液体消毒薬剤の散布が難しかった場所の迅速な殺菌・消毒など、新型コロナウイルスの感染拡大防止や公衆衛生の向上に革新をもたらす技術として期待されます。
※本研究成果の一部は、総務省令和2年度補正予算事業「高強度深紫外LEDの活用による新型コロナウイルス等の殺菌用光照射機材の実用化事業」の一環として得られました。

背景

図
今回開発したワット級の深紫外LEDハンディ照射機
深紫外光と呼ばれる、極めて強い殺菌作用を持つ光を発する深紫外LED(発光ダイオード)に高い関心が集まっています。NICTでは、東京大学医科学研究所と共同で、発光波長265 nm帯の深紫外LEDが、液体中並びにエアロゾル中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して極めて高い不活性化効果を有することを世界で初めて定量的に明らかにしました(2022年3月18日の報道発表参照)。これにより、深紫外LEDは、接触感染やエアロゾル感染を介した感染拡大を抑制するための画期的なツールとして期待されていました。
深紫外光を用いたウイルス殺菌応用においては、深紫外LEDから発せられるパワー(光出力)をどれだけ高められるかが実用上、最も重要なファクターとなります。しかし、これまでの深紫外LEDを用いたハンディ照射機は、光出力が小さなものしかなく(数十mWミリワット 程度)、短い時間で殺菌しようとした場合、殺菌できる有効範囲が直径数cm程度内に限られるなど、パワーを必要とする殺菌応用においては、その実用性に問題がありました。
このため、従来、広範囲の殺菌などに向けた高出力用途の深紫外光源としては、水銀ランプが主に用いられてきました。しかし、水銀ランプは、人の健康や環境に有害な水銀を含み、2017年発効の「水銀に関する水俣条約」により、その廃絶に向けた国際的な取組が加速しています。また、水銀ランプやエキシマランプ等のガス放電式ランプは、ガスを封入するガラス管が割れやすく、光源のサイズや駆動電源が大掛かりとなるなど、持ち運びに不向きで、その利用範囲は限定されていました。
このような背景から、水銀を使用せず、どこにでも持ち運びできる小型ハンディ機で、広範囲のウイルスを迅速に殺菌可能な高出力深紫外LEDハンディ照射機の開発が切望されていました。
NICTの当研究グループは、これまで、高出力な深紫外LEDの研究開発とその実用化に向けた取組を積極的に推進してきました。内部光吸収や光出力飽和現象(効率ドループ)の抑制を可能とするナノ光構造技術を基盤とした深紫外LEDの研究により、深紫外LEDの単チップ当たりの世界最高出力の記録を何度も大幅に更新(光出力500 mW超)するなど、本分野をリードする成果を発表してきました(2022年3月18日、2017年4月4日及び2015年4月1日の報道発表参照)。NICTは、低環境負荷で、小型、高出力な深紫外LEDの実現に大きく貢献しています。

今回の成果

今回、最も殺菌性能の高い波長265 nm帯の発光ピークを示す高強度深紫外LEDチップ技術を用いて、LEDチップを高放熱実装基板に高密度マルチチップ実装することにより、光出力8 Wを超えるワット級高出力動作の深紫外LEDハンディ照射機を世界に先駆け開発することに成功しました(補足資料 図1、2参照)。高強度深紫外LED技術により、実装基板や駆動電源、バッテリーも含めて全て小型化、筺体内に収納することが可能となり、どこにでも持ち運べるワット級の小型ハンディ機を実現しました。
続いて、今回開発した深紫外LEDハンディ照射機を用いて、豚コロナウイルス(PEDV)に対する照射効果を評価しました。ウイルス液を滴下した複数のシャーレを同心円状に均等に配置し、その真上から光出力を5 Wに設定し深紫外光を照射しました(補足資料 図3参照)。ウイルス試験については外部検査機関に照射機を持ち込んで実験を行い、照射後のウイルス液を直ちに回収しTCID50によりウイルス力価(感染性を有するウイルス量)を測定しました。
その結果、直径30 cmの範囲内のウイルスへの深紫外光照射の場合、0.97秒の照射で99.9 %、3秒の照射で99.99 %のウイルスが不活性化されました。また、より広い直径100 cmの範囲内のウイルスへの深紫外光照射の場合、12.86秒の照射で99.9 %、27.17秒の照射で99.99 %のウイルスが不活性化されました(補足資料 図4及び表1参照)。
ワット級光出力の265 nm帯深紫外LEDハンディ照射機を実現することにより、広範囲(直径100 cm内)のウイルスを非常に短い照射時間(30秒以下)で99.99 %以上不活性化できることを初めて実証しました。これまでは、持ち運びできる高出力な小型照射機がなく、広範囲のウイルスを短時間で殺菌することは不可能で、利用可能なシーンは限られていましたが、本成果により、深紫外光を活用した殺菌応用の可能性が飛躍的に広がり、その社会普及を一段と加速させる技術として期待されます。

今後の展望

今回の成果は、ワット級高出力動作の深紫外LEDハンディ照射機を実現し、広範囲のウイルスに対し、短時間の照射で極めて高いウイルス不活性化率を達成した世界初の実証例となります。これまで液体薬剤の散布が難しかった場所の迅速で利便性の高い殺菌・消毒や、病院・商業施設・公共交通機関など幅広い場面、場所での実用性・汎用性の高い殺菌応用に貢献するものであり、新型コロナウイルスの感染拡大防止や公衆衛生の向上に革新をもたらす技術として期待されます(補足資料 図5参照)。
深紫外光技術は、殺菌から医療、環境、工業、ICT分野に至るまで幅広い分野の生活・社会インフラに画期的な技術革新をもたらすことが期待されています。NICTでは、深紫外光デバイス技術の研究開発を通じた新規産業の創出、安心安全で持続可能な社会づくりへの貢献を目指していきます。

関連する過去の報道発表

・2022年3月18日 「高出力深紫外LED(265nm帯)によりエアロゾル中の新型コロナウイルスの高速不活性化に成功」
・2017年4月4日 「150mW超(発光波長265nm)世界最高出力の深紫外LEDの開発に成功」
・2015年4月1日 「世界最高出力(90mW超)の深紫外LEDの開発に成功」

補足資料

今回開発したワット級の高出力深紫外LED小型ハンディ照射機

図1
図1 (a) 今回開発したワット級の高出力深紫外LED小型ハンディ照射機の外観
(b) 深紫外光照射部の拡大写真。高強度深紫外LED 20チップを高密度マルチチップ実装している。

高強度深紫外LED技術により、実装基板や駆動電源、バッテリーも含めて、全てを小型筺体内に収納し、どこにでも持ち運んで高出力の深紫外光を照射することが可能な小型ハンディ機を実現しました。

図2
図2 今回開発した深紫外LEDハンディ照射機の光出力と発光波長特性

ワット級(8 W超)の光出力を室温・連続動作下において達成しました。図2のグラフ横軸は5×4 LEDアレイのLED 1チップに流れる電流値を示しています。挿入図に示すとおり、深紫外LEDハンディ照射機の発光ピーク波長は最も殺菌性能の高い265 nm帯を示していることが分かります。

図3
図3 深紫外LEDハンディ照射機を用いたウイルス不活性化試験の実験配置図
(a) ウイルス不活性化試験における照射配置の模式図
(b) 照射範囲Φ100 cmの場合のウイルス配置の写真

深紫外LEDハンディ照射機から照射される深紫外光の照射範囲は、直径30 cmと直径100 cmの2条件で実施しました。照射距離は、照射範囲が直径30 cmの場合は20 cm、直径100 cmの場合は60 cmとしました。図3の写真は、直径100 cmの照射範囲内に豚コロナウイルス(PEDV)液を滴下した複数のシャーレを同心円状に均等に配置している様子を示しています。

図4
図4 深紫外光照射による豚コロナウイルス(PEDV)の不活性化効果

豚コロナウイルス(PEDV)液を滴下した複数のシャーレを直径30 cm及び直径100 cmの範囲内に均等に配置して、深紫外LEDハンディ照射機から深紫外光(光出力5 W)を照射した直後に回収し、ウイルス力価(感染性を有するウイルス量)を評価しました。図4の青丸は直径30 cmの範囲内に照射した場合、赤丸は直径100 cmの範囲内に照射した場合の深紫外光の各照射時間に対するウイルス生存率を示しています。

表1 深紫外光照射時間と豚コロナウイルス(PEDV)の不活性化率との関係
表1


図4で得られた実験値から、今回開発した深紫外LEDハンディ照射機を用いてウイルスを90 %~99.999 %の各割合で不活性化するために必要な照射時間(秒)を算出しました。
ワット級光出力の265 nm帯深紫外LEDハンディ照射機の開発に成功し、広範囲(直径100 cm内)のウイルスを非常に短い照射時間(30秒以下)で99.99 %以上不活性化できることを初めて実証しました(表1参照)。
これまでは、持ち運びできる高出力な小型照射機がなく、広範囲のウイルスを短時間で殺菌することは不可能で、利用可能なシーンは限られていましたが、本研究成果により、深紫外LEDを活用した殺菌応用の可能性が飛躍的に広がりました。NICTでは、今後も、新しい深紫外光デバイス技術を通じた安心安全で持続可能な社会づくりへの貢献を目指し、更に研究を進めていきます。


図5
図5 今回開発したワット級の高出力深紫外LED小型ハンディ照射機の使用イメージ図

今後の応用例

今回開発したワット級の深紫外LED小型ハンディ照射機は、病室のベッドや医療器具、学校や介護施設、オフィスのデスクやドアノブ、トイレ、飲食店のテーブルやキッチン、鉄道車両や航空機内の座席や手すりなど、人が出入りし接触するあらゆる表面・空間を広い面積にわたって簡便・迅速に殺菌することが可能であり、幅広い用途における今後の活用、応用展開が期待されます。

用語解説

深紫外LED

おおむね200~300 nmの波長帯(深紫外領域)の光を発する半導体発光ダイオード(LED: light-emitting diode)のこと。深紫外光を照射することにより、塩素などの薬剤を用いずに、細菌やウイルスを効果的に殺菌・不活性化することができる。特に、265 nm帯の深紫外光は、DNA/RNAの吸収ピークと重なるため、ウイルスの不活性化に対して最も効果的である。深紫外LEDのウイルス不活性化用途における実用化の際には、人体への安全性を確保するために、皮膚や目への直接の照射を避ける運用が必要である。

豚コロナウイルス(PEDV)

コロナウイルスの一種であり、コロナウイルス科αコロナウイルス属に分類される豚コロナウイルス(PEDV: Porcine epidemic diarrhea virus)。試験ではVero細胞で培養したP-5株を使用した。


水銀ランプ

水銀ガスを閉じ込めたガラス管内でアーク放電を起こし発光させる光源。254 nmや365 nmなどの輝線を発し、深紫外領域における最も代表的な光源で、様々な産業、用途において用いられている。しかし、2017年に「水銀に関する水俣条約」が発効され、人体・環境に有害な水銀の削減・廃絶に向けた国際的な取組が加速している。


TCID50
感染性のウイルス量を測定するための手法の一つ。ウイルス試験は外部検査機関で実施した。深紫外光を照射後、直ちにウイルス液を回収し10倍階段希釈した後、Vero細胞で培養した。培養後の細胞変性効果の有無からウイルス力価(TCID50/mL)を算出した。培養した細胞のうち半数が感染した濃度をTCID50(50 % Tissue Culture Infective Dose)と呼ぶ。

本件に関する問合せ先

未来ICT研究所 神戸フロンティア研究センター
深紫外光ICT研究室

井上 振一郎

広報(取材受付)

広報部 報道室