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NICTは超高速研究開発ネットワークテストベッドJGNを運用しており、光ファイバネットワークは国内外にアクセスポイントをもっています。一方、首都圏における光格子時計の開発についてはNICTの他にも、東京大学・理化学研究所・産業技術総合研究所・NTT物性科学基礎研究所等において精力的になされています。これらの光格子時計が存在する拠点間を光ファイバで接続すると、光格子時計が生成する周波数が一致することを確認するだけでなく、様々なアプリケーションが可能となります。

例えば、光周波数標準の有力なアプリケーションの一つとして重力による相対論効果を利用した測地センサとしての利用がありますが、重力環境の変化を捉えるためには動かないリファレンスが必要であり、最高性能の光標準に対してリファレンスとなりうるものは別の独立な光標準しかなく、これをリファレンスとして機能させるためには重力環境の変化がない、物理的に離れた場所に置く必要があります。従って、遠く離れた光格子時計をファイバで接続する必要があります。

NICTでは 2000年代後半より光ファイバを利用して周波数基準信号を遠方に精度劣化無く届ける研究開発を行っています。2011年には図に示すように、本部-東京大学間のJGNを利用して東京大学都の間で光格子時計の周波数比較実験を行い、標高差56mが引き起こす一般相対論による周波数シフトを明瞭に検出しました[1]。数10km離れた2つの光時計の間でリアルタイムに相対論効果を検出したのは世界で初めてです。

NICTと東京大学の87Sr光格子時計は長さ60kmの光ファイバでリンクされています
NICTと東京大学の87Sr光格子時計の比較では56mの標高差による周波数差を検出しました。2つの時計は長さ60kmの光ファイバでリンクされています。

また、光時計によって生成される正確な時刻信号を光ファイバで伝送することにより、将来の情報通信網に現在より正確な時刻を供給することができることになり、これはB5G/6G等で飛躍的な発展が期待される、低遅延通信を実現する基盤となります。

NICTでは基準周波数信号だけでなく時刻信号を伝送する研究も行っており、通信帯波長の搬送波にマイクロ波基準周波数信号による変調を施し[2]、これにさらに時刻信号も重畳させることで光ファイバの先の遠方でも同じ時刻信号を得られる技術を開発しました。本技術については、JGNのNICT本部-東大本郷キャンパル間に実装されており、東京大学本郷キャンパスに、13ナノ秒の不確かさで 日本標準時に一致した時刻信号を常時供給しています。

参考文献

1) A. Yamaguchi, M. Fujieda, M. Kumagai, H. Hachisu, S. Nagano, Y. Li, T. Ido, T. Takano, M. Takamoto, and H. Katori, Direct comparison of distant optical lattice clocks at the 10-16 uncertainty, Appl. Phys. Express 4 082203 (2011)

2) M. Kumagai, M. Fujieda, S. Nagano, and M. Hosokawa, Stable radio frequency transfer in 114 km urban optical fiber link Opt. Lett. 34 2949 (2009)