生活環境における携帯電話基地局等の電波強度を明らかに

〜我が国で初めて電波ばく露レベルの大規模・長期測定を実施〜
2021年12月7日


国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

  • 最近10年間の市街地、郊外及び地下街の携帯電話基地局等からの電波強度の変動傾向が明らかに
  • 我が国で初めて、生活環境における電波ばく露レベルの大規模・長期測定を2019年度から実施
  • 本格導入が進む5Gによる電波ばく露も対象に、長期的に測定を継続・公表していく予定
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)は、市街地、郊外及び地下街の携帯電話基地局等からの電波強度の変動傾向を調査しました。これまでに、携帯電話基地局等からの電波ばく露レベル変動を市街地・郊外・地下街における500地点以上で調査し、同一地域における過去(約10年前)の測定結果と比較したところ、電波ばく露レベルが上昇傾向にあるものの電波防護指針より十分に低いレベルであることを明らかにしました。NICTは、2019年度から我が国で初めてとなる電波ばく露レベルの大規模・長期測定を実施しており、電界プローブによる定点測定携帯型測定器を個人が持つことによる測定電測車(測定器を搭載した自動車)による広域測定等を組み合わせて、生活環境における電波ばく露レベルのデータを取得しています。
今後、電測車を用いた広域測定等を通じて、5Gが本格導入される我が国の電波ばく露レベルの大規模測定を進めていきます。

背景

我々の身の周りには電波を利用した様々な機器があふれていますが、携帯電話・携帯電話基地局・無線LAN等からの電波は、電波防護指針に基づき、人体に悪影響を及ぼさない範囲で利用されています。他方、海外では、第5世代携帯電話(5G)からの電波による健康不安が5Gの展開の障害となっているという事例もあり、我が国においても一部で不安の声が上がっています。
こういった不安の理由の一つとして、電波は確実に身の周りに存在しながら、目に見えないために、どのような強さなのか分からないということが挙げられます。そこで、様々な発生源からの電波の強さを網羅的に把握してデータを蓄積し、電波ばく露レベルの情報を広く共有することが求められています。
NICTは、上記のニーズを受け、電波環境の測定技術を有する公的研究機関として、我が国で初めてとなる電波ばく露レベルの大規模・長期測定を2019年度に開始しました。電界プローブによる定点測定、携帯型測定器を個人が持つことによる測定、電測車による広域測定等を組み合わせることで、データの偏りを抑え、大規模かつ詳細な電波ばく露レベルのデータを取得しています。

今回の成果

図1
図1 測定風景と電波ばく露レベル(中央値)の測定結果
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NICTは、携帯電話基地局等からの電波ばく露レベルを市街地・郊外・地下街における500地点以上で測定しました。測定には専用の測定装置(電界プローブ)を用いて、我が国の電波法令で定められた測定手順に準拠した測定を行いました(図1左参照)。測定で得られた大量のデータを統計処理し、地域の差異や過去の測定結果からの変動等について解析しました。
地域別に結果を比較すると、市街地が郊外よりも電波ばく露レベルが高い傾向(4倍程度)が示されました。この傾向は、過去(約10年前)と現在で変わりませんでした。地下街の電波ばく露レベルは、郊外より若干大きい結果となりました(図1右参照)。
また、それぞれの地域について過去と現在の測定結果を比較した場合、市街地・郊外共に、過去よりも現在の方が電波ばく露レベルは約3倍上昇している傾向が示されました(図1右参照)。さらに、地下街の電波ばく露レベルは過去に比べて顕著な上昇(約100倍)が示されましたが、これは、過去の測定時には携帯電話サービスが地下街の一部で利用できなかった状況が、現在では改善されているためと考えられます。
電波ばく露レベルが上昇傾向にあるものの、いずれの場合も電波防護指針に対して十分に低いレベル(中央値で約1/10,000以下)ということが明らかになりました(図1右参照)。また、今回得られた電波ばく露レベルは、最近の海外での測定結果と比べて約1/15でした(補足資料参照)。
これらの研究成果は、2021年7月に国際学術論文誌International Journal of Environmental Research and Public Health に論文として掲載されました。

今後の展望

今回の成果は、5Gが測定地域に導入される前の結果であり、今後5Gにより電波ばく露レベルがどのように変動するかを明らかにするための参照データとなるものです。そのため、今後本格導入が進む5Gによる電波ばく露も対象として、長期的に(少なくとも2040年まで)測定を継続し、結果を公表していきます。また、海外における電波ばく露レベルの調査活動とも連携し、国際的に相互比較可能な電波ばく露レベル測定データの取得・蓄積・活用の実現に取り組みます。
本研究プロジェクト及び研究成果について、国内関係者への周知を目的としたシンポジウム(オンライン形式)を2021年12月16日(木)に開催する予定です。

論文情報

掲載誌: International Journal of Environmental Research and Public Health
DOI: 10.3390/ijerph18158068 
論文名: Radiofrequency Exposure Levels from Mobile Phone Base Stations in Outdoor Environments and an Underground Shopping Mall in Japan
著者: Teruo Onishi, Miwa Ikuyo, Kazuhiro Tobita, Sen Liu, Masao Taki, and Soichi Watanabe
 
 
なお、本研究の一部は、総務省委託研究「電波ばく露レベルモニタリングデータの取得・蓄積・活用」(JPMI10001)により行われました。

補足資料

今回の測定

携帯電話基地局等からの電波ばく露レベルの測定を市街地・郊外・地下街において行いました。市街地は東京都内2か所、郊外は東京近郊2か所において、1 km四方の領域を100分割(10 x 10)し、それぞれの地点で測定を行いました(合計400か所)。地下街については、東京都内の地下街の通路を158分割しました。今回の測定場所は、過去の測定[1][2]と同じ場所となるように選択したものです。市街地・郊外では主に携帯電話基地局からの電波ばく露レベルを、地下街では携帯電話基地局に加え無線LAN等の電波ばく露レベルを測定しました。市街地・郊外では測定は平日の昼間に、地下街では平日の昼間と夜間に行いました。
図2は、それぞれの測定地点において、測定した周波数ごとの電波ばく露レベルを積算し、カラーマップで表示したものです。カラーマップは電波ばく露レベルに応じて色分けされています(各色が示すレベルは図2の下側を参照。レベルは、橙色が一番高く、黄色、緑色、水色の順に低くなる。)。
測定結果から得られる特徴を下記に述べます。
① 市街地は郊外より電波ばく露レベルが高い傾向
② 地下街の電波ばく露レベルは昼と夜でほぼ同様
③ 地下街の電波ばく露レベルは、郊外より若干大きい程度

図2
図2 市街地(左上)・郊外(左下)、地下街(右)の電波ばく露レベルのカラーマップ
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市街地・郊外の各測定地域で測定した100か所の測定データについて統計処理を行い、最大値、90パーセンタイル値、中央値(50パーセンタイル値)、10パーセンタイル値、最小値を図3に示します。パーセンタイル値とは、例えば、90パーセンタイル値は100個のデータを小さい値から大きい値に並べた時に90番目の値となります。
図3において、各測定地域(市街A、B、郊外A、B、地下街)の左側に過去の測定結果[1][2]を、右側に今回の測定結果を示します。
統計量のうち、最も代表的な指標と考えられる中央値の比較の特徴を下記に示します。
① 市街地の方が郊外よりも電波ばく露レベルが高い(中央値で4倍程度)
② 過去より現在の方が電波ばく露レベルは上昇している
(ア) 市街地と郊外では、中央値で約3倍の上昇
(イ) 地下街では中央値で約100倍の上昇
(過去の測定時には携帯電話基地局からの電波が届かない場所があったが、今回の測定では全ての測定地点で携帯電話基地局からの電波が届いていたためと考えられる。)

図3
図3 市街地、郊外、地下街の電波ばく露レベルの統計分布
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市街地・郊外・地下街の電波ばく露レベルを電波防護指針値と比較した結果を図4に示します。指針値より最大値で約1/1,000以下、中央値で約1/10,000以下を示しており、いずれの場合も電波防護指針に対して十分に低いレベルであることが分かりました。
図4
図4 市街地、郊外、地下街における電波防護指針値と電波ばく露レベルの比
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5Gに対する健康不安に関する情報

海外における同様の測定結果との比較

最近の海外における測定結果として、英国の測定結果[3]と本測定結果との比較を行いました。
英国の報告によると2020年に英国内22か所で測定を行ったものであり、電波ばく露レベルの最大値は、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)のガイドライン値に対して1.5%でした。
今回の測定では、測定された電波ばく露レベルの最大値は、電波防護指針値に対して約1/1,000(すなわち0.1%)であり、ICNIRPのガイドライン値は我が国の電波防護指針値と同等であることから、英国の測定結果と比べて約1/15となります。
 
 

用語解説

電波ばく露

電波利用において人体が電波(3 THz以下の周波数)にさらされること。

電波防護指針

電波ばく露においてその電波が人体に好ましくないと考えられる生体作用を及ぼさない安全な状況であるために推奨される指針(周波数の範囲は10 kHzから300 GHz までに限る。)のことをいう。我が国では総務省情報通信審議会の答申として策定されている。

電界プローブ

空間中の電波は様々な方向から到来し、電波の偏波(電界の向き)も様々な方向であるため、通常のアンテナでは正確な電波のレベルを測定することが困難である。そのため、専用の測定装置として、空間中の電波ばく露レベルを高精度に測定するために、任意の電波の入射方向・偏波方向に対して正確に測定可能なアンテナを直交3軸に配置したプローブのこと。

定点測定

静止状態で電波ばく露レベルの測定を行うことであり、短時間(例えばバッテリー駆動測定器を使った数分から数時間)に行う測定と長期間にわたり行う測定(例えばIoTセンサを使った数年間)行う測定がある。今回行ったのは、短時間に行う測定である。

携帯型測定器による測定

小型の測定器(300 g程度)をカバンなどに入れて携帯し、個人の電波ばく露レベルを測定するもの

電測車による測定

電波ばく露レベル測定用に改造した自動車に測定器を搭載し、走行中又は駐車時に広範囲な測定を行うもの

本件に関する問合せ先

電磁波研究所 電磁波標準研究センター
電磁環境研究室

広報(取材受付)

広報部 報道室

Tel: 042-327-6923