航空機から地表面を観測する合成開口レーダーの高分解能化と技術実証に成功

〜次世代レーダーにより従来比2倍、世界最高分解能15cmを達成〜
2022年1月25日


国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

  • 15cm分解能で地表面を画像化するレーダーPi-SAR X3パイサーエックススリーの技術実証に成功
  • NICTの従来の航空機搭載合成開口レーダー(Pi-SAR2パイサーツー)に比べて2倍の高精細画像を取得
  • 災害・環境モニタリングの分野での活用が期待され、船舶や漂流物等の海面監視にも応用可能
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICTエヌアイシーティー)、理事長: 徳田 英幸)は、電磁波研究所において、電波を使うことで昼夜・天候に左右されることなく地表面を画像化することができる航空機搭載合成開口レーダー「Pi-SAR X3」により、地表面観測の高分解能化(従来のPi-SAR2:分解能30cm→Pi-SAR X3:分解能15cm)を実現し、その技術実証のための試験観測に成功しました。分解能15cmは世界最高性能であり、従来比2倍の高精細画像が取得可能になりました。本技術により、地震等の自然災害時における被災状況をより詳細に把握できるようになり、円滑かつ効果的な救助活動や復旧作業への貢献が期待できます。今後、本技術は、災害発生状況の早期把握や環境モニタリング及び、船舶や漂流物等の海面監視などの社会実装への取組を推進していく予定です。

背景

NICTでは、航空機に搭載するX帯の電波を使った合成開口レーダーの研究を行い、分解能30cmで地表面を画像化することができるレーダー(Pi-SAR2)の開発を2008年に達成しました。開発後に実施した試験観測や災害観測で得られた画像データは自らの応用研究で活用するとともに、他の研究機関や行政機関に提供することで利活用を進めてきました。また、開発した技術の一部は社会展開され、実用化が進められています。一方で、画像データを利用しているユーザからは、より高精細に地表面を画像化することができる新たなシステムへの要望がありました。今回の成果は、その要望に応え、さらに本技術の高度化を実現するものです。

今回の成果

図1
図1 Pi-SAR X3を搭載した航空機
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NICTは、世界最高分解能15cm達成を実証するため、2021年12月に能登半島上空においてPi-SAR X3を搭載した航空機によって初の試験観測を行い、従来比2倍の高精細画像取得に成功しました。同レーダーは、広帯域(従来比で2倍の帯域)に対応した送受信機とアンテナ、広帯域の受信信号を記録するための高速・大容量の観測データ記録装置(書き込み速度:10倍、容量:8倍(どちらも従来比))、及び観測して得られた観測データを準リアルタイムに処理して画像化する機上処理装置を搭載しています。図1は、今回技術実証したPi-SAR X3の機器を搭載した航空機を示しています。図2は、Pi-SAR X3の試験観測で得られた分解能15cmと30cmの画像を示しています。分解能15cmの画像では、トラクターの車輪が田圃(たんぼ)に作った轍(わだち)を明瞭に確認することができます。このような高精細画像を得ることができるPi-SAR X3は、災害時の被災地状況の把握を効果的に行うことができ、救助活動や復旧作業の現場での利用が期待できます。また、Pi-SAR X3は上空から広域を高精細に観測できるため、船舶や漂流物等の海面監視への利用も期待できます。

図2
図2 2021年12月にPi-SAR X3で観測された輪島市近郊の画像と白枠内(田圃)の拡大図
(拡大左図: 15cm分解能、拡大右図:30cm分解能(Pi-SAR2相当))
Pi-SAR X3は、Pi-SAR2では計測することが困難であった田圃内の轍を鮮明に観測することに成功しており、地震等で発生する地表面の変化をこれまで以上に詳細に観測することができます。

今後の展望

今後は、システムの最適化を進めることで高画質化を進めていきます。また、2022年度からは、地震等の自然災害のモニタリングや、土地利用、森林破壊、海洋油汚染、海洋波浪、平時の火口観測等の環境モニタリングに関する技術の高度化を実施する予定です。

関連するプレスリリース

補足資料

航空機搭載合成開口レーダー Pi-SAR X3の計測ターゲット

Pi-SAR X3は地表面を昼夜・天候に左右されずに高分解能で画像化することができるシステムです。その計測ターゲットは図3の通りです。

図3
図3 Pi-SAR X3の観測ターゲット

用語解説

合成開口レーダー(SAR)

合成開口レーダーでは、高い空間分解能を得るために合成開口処理パルス圧縮処理を行っています。合成開口処理は、飛行方向の分解能を向上させる処理です。一方、パルス圧縮処理は、飛行方向と直角方向(以後、「レンジ方向」と呼ぶ)の分解能を向上させる処理です。NICTの航空機搭載合成開口レーダーはX帯の電波(8〜12GHz)のうち、Pi-SAR 2では9.3〜9.8GHzを使用していましたが、Pi-SAR X3では9.2〜10.2GHzを使用しており、送受信する周波数の幅(帯域幅)を拡張することによって分解能の向上を実現しています。

合成開口処理

合成開口処理は、SARを搭載した飛翔体を直線に飛行させることで、仮想的に上空に大きなアレイアンテナを形成し、あたかも指向性の高い大きなアンテナで観測したかのような高い分解能で地表面を画像化する処理技術です。合成開口処理による飛行方向の分解能は、仮想的に形成するアレイアンテナの大きさに比例して向上します。つまり、アレイアンテナが大きければ大きいほど、飛行方向の分解能を高めることができます。

パルス圧縮処理

パルス圧縮処理は、送信する電波の周波数を線形変調させながら送信し、受信された信号を解析処理することで電力レベルの大きな単パルス波で観測した時と同じ高い分解能で地表面を映像化する処理技術です。パルス圧縮処理によるレンジ方向の分解能向上は、送受信する電波の帯域幅に比例します。つまり、帯域幅が広ければ広いほど、レンジ方向の分解能を高めることができます。

本件に関する問合せ先

電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター
リモートセンシング研究室

児島 正一郎

広報(取材受付)

広報部 報道室

Tel: 042-327-6923